唐草
冬のあいだ、枯れたかに見えた蔦から、赤い芽がぷちぷちと 顔を出しているのを発見した。夏には、また我が家の壁の一部 は緑に覆われてしまうだろう。本来は壁を傷める困りものの蔦 も、力に満ちた春の新芽の発見は、何かしら嬉しい。
うねうねと伸びて広がる蔦、くるくると絡まる蔓。そんな植 物のエネルギーを表現した文様に唐草がある。風呂敷の柄とし てパターン化された唐草が知られているけれど、この曲線を組
み合わせ繰り返す連続文様は、うねり繋がる蔓、ひるがえる葉、 散らされた花々などの基本を踏まえて幅広いバリエーションが あり、気が付けば壁紙、服の飾り、コーヒーカップの縁などに いくらも見つけられる。身近にあり、そして古く歴史を遡るこ との出来る日本の伝統文様である
日本の、と言いながら唐草文様の発祥は、紀元前の地中海沿岸。 ギリシャのパルメット文様がシルクロードをたどり、中国、朝 鮮半島、海を渡って日本へ。長い時と距離を旅する間に、その
土地の文化を吸収し、変化して、それぞれ特有の唐草が生まれた。 日本では古墳時代の金属装飾に見られる渡来のパルメット唐草 が最古。その後、仏教美術、建築装飾、染織文様などに取り入 れられて、日本の唐草が育まれた。唐草という名称は、唐・中国、 すなわち海の向うから来た草、という意味合いを持って響く。 日本の伝統に溶け込みながら、その名が伝来を語っているので ある。
織物や蒔絵に格調高く息づいて、平安貴族にも愛された唐草だ が、なぜか近世になって俄然、庶民派となる。江戸時代に栽培 が盛んになった木綿だが、江戸中期以降、これに文様を藍染め た浴衣や手拭が流行する。同じく江戸中期、白磁に藍色で文様 を描く染付磁器で皿や猪口などの日常食器が量産されるように なり、高級品だった磁器の需要層が広がる。ともに白と藍で鮮 やかに彩られた庶民の暮らしの道具、そこに選ばれた文様の代 表が唐草だったのだ。長い旅を経て、ぐるぐる渦巻きに変化し た唐草が、すっかり落ち着いて蕎麦猪口の上にある。

もり・ゆみ
戸栗美術館評議員・学芸員。執筆、 カルチャースクール講師等の活動を 行う。著書「古伊万里との対話」「古 伊万里からくさ美術館」監修「週刊 やきものを楽しむ」他。