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織物

藤布

江戸時代になって木綿が普及するまで、庶民は身近な植物から糸をとり、日常の衣や暮らしの布を織り上げていた。そんな自然布のひとつが藤布。本州から九州の山林では、初夏になると紫の房を揺らす山藤が見られ、花の美しさと木の生命力から、縁起の良い植物として古くより愛されてきた。その一方で山藤は、大樹にからみついて木を枯らしてしまうほどの生命力があり、放っておくと山林が荒れてしまう。だから、山の所有者でなくても、自由に藤蔓を取ることが許されていた。しかし、採取をするには山深く分け入り、時には木に登らなくてはならず、しかも硬い表皮を剥ぎ取り、大量の灰汁で長時間煮て繊維をやわらかくする手間は、数ある自然布のなかでもかなりの重労働。それゆえ、平地で栽培できる麻が普及するにしたがって次第に藤布を織る土地は少なくなり、さらに木綿の普及により激減。昭和の始めには日本から姿を消したものと思われていたが、昭和37(1962)年、京都府の民俗資料調査により、丹後半島の上世屋地域で、細々とつくり伝えられていることがわかった。現在は、上世屋で連綿と続いてきた技法を受け継ぎ、保存会の人々が伝統の藤布づくりに取り組んでいる。生成りの素朴でしなやかな糸味は、使うほどに艶を増し、着物好きにとっては憧れの夏帯として知られている。